創業者インタビュー
おだわら・はこねではじめたひとたち
藤森 華子Interview08
子育てしながら在宅勤務の会社員&フリーランス。小田原で暮らす、新しい働き方のパイオニア
このインタビューのシリーズに登場する唯一の会社員、藤森華子さん。予期せぬきっかけから在宅勤務を始め、現在は副業でフリーランスとしても仕事をしています。在宅勤務になって時間にも体力にも余裕が出て、フリーランスとしても仕事を請けることで、できることの幅が広がったといいます。在宅勤務も副業もまだまだめずらしいのが現実な日本では、藤森さんのような働き方をする人はパイオニアであるといえそうです。藤森さんの選択のなかには、どこに住み、どこで、どんなふうに働くのか、これからのわたしたちの「しごと」と「暮らし」のヒントがありそうです。
会社員。そして、フリーランス。在宅勤務のママデザイナー
—藤森さんがどういう仕事をしているか聞かせてください。
WEB制作会社のデザイナーとして在宅勤務をしながら、フリーランスでもデザインの仕事を請け負っています。現在は第2子の育休中で、年内にはまた在宅勤務で復帰予定です。(※2017年当時)
—会社の仕事とフリーランスの仕事、それぞれどのような内容ですか。
会社では、直近だとスマホゲームのアプリのデザインを主に行っていました。フリーランスとしてはWEBサイトの制作がほとんどで、デザイン以外にもコーディングも自分で行っています。あとは依頼があればチラシのデザインなんかもしていますね。
—在宅勤務はまだまだ少数派というイメージですが、今の働き方を始めたのは何かきっかけがあったのでしょうか。
きっかけは自分の意思ではないのですが、4年ほど前に切迫流産になって入院しなければいけないときがあったんです。そのときまでは、いま勤めている東京の会社に毎日通っていました。しばらく入院するならもう辞めるしかないのかな、と思っていたら、とりあえずは休職扱いにしてもらえました。そのあとも医師から自宅安静の指示があったので、いよいよどうしようと思っていたら、会社から、在宅勤務でもいいですよ、と言ってもらえたんです。もともと本社が福岡にある会社なので、福岡・東京間でテレビ電話やチャットでのやり取りが多くされているという環境があって、ちょっと体調が悪い人は自宅での作業が許されるような土壌がありました。なので、在宅勤務のような働き方が受け入れられやすかったんだと思います。そのあと、夫の転勤で小田原に引っ越してきて、引き続き同じ会社で在宅勤務をしています。実際、この4年間でどうしても会社に行く必要があったのは打ち合わせで二、三度あったくらいで(笑)、在宅でも十分仕事ができています。勤め先の会社の代表は、女性が働くことや育児などに理解のある方で、応援してくれているんです。やっぱり通勤しなくていい、というのは本当に子育てがしやすくて。時間に余裕ができましたし、体力的にも楽です。子どもがちょっと体調を崩しても仕事に大きな穴を開けずに一緒にいてあげられる。同時に、会社員であることの良さというのもやっぱりあるんですよね。福利厚生があるのは助かっていますし、同じ人たちと長く一緒に仕事できるのもやりやすいんです。フリーランスだと、案件ごとに人と折衝するのにエネルギーを使いますからね。
在宅勤務のデメリットを埋めた、フリーランスという新たな選択
—フリーランスとしての仕事はどのようなきっかけで始めたのでしょうか。
以前からときどきフリーの仕事もしていたんですが、本気で仕事をもらっていこうと思ったのは、第1子を保育園に預け始めた翌月くらいですね。実際に子育てをしてみると、子育てしながらこれまでと同じ仕事量を終わらせるというのは難しいと気が付いて…。育休から復帰するときに、会社からは固定給でもいいよ、と言ってもらったのですが、私から提案して、自分でスケジュールの調整がしやすいように案件ごとのお給料に変更してもらいました。でも、17時に終わる仕事量を私のために調整する、というのは会社としても難しくて、最初は仕事がどっと来てしまった。あらためて、減らしてほしい、とお願いしたところ、次の月にはほとんど仕事が来なかったんですね。それからも、仕事がある月とない月が出てきてしまって。仕事量が少なければもちろんお給料も減るわけで、でもその時間にも保育料も保険料も発生しているじゃないですか? これはマズい、今まで通りにはできないぞ、と思ったんですよね。それで、フリーとして自分で仕事を取るので会社としてもそれを認めてほしい、とお願いして許可をもらったんです。それ以降は、まず会社に案件が多い月、少ない月、というのを事前に確認して、それに合わせてフリーランスとしての仕事もするようになりました。
—フリーランスとして仕事をしてみて、どうですか。
フリーランスって本当に大変だと実感していますね。なんだか会社が素晴らしいクライアントに見えてきたんですよ。育休もくれる、保険も入ってくれる、仕事もコンスタントにくれる(笑)。改めて、会社にはありがたいと思います。フリーランスの良い部分としては、会社だと分業で行っている部分も、フリーだと例えばサイト制作を全部自分ひとりで行うこともあるので、作業に幅があっておもしろいんです。責任感も増しますし、自分の作品のように達成感もある。あとは、会社とは違って、仕事をくれる方がWEBに詳しい方とは限らないので、一から相談してくれることがあるのも勉強になりますね。WEBのデザインって傍から見るとこういうふうに難しいんだ、ってクライアントの目からわかったり。視野が広がったと思います。
夫と仲間と支え合って、仕事と子育てを両立させる日々
—今の働き方をしているなかで、どんな人に助けてもらっていると感じますか。
まずは夫ですね。仕事があふれて土日に食い込んでしまったときには、夫が子守をしてくれるので助かっています。私たち夫婦は土日のどちらかにそれぞれ半日ずつ自分の時間を取るようにしているんです。その時間に美容院に行ったり、都内まで美術館を観に行ったり、自由に過ごしています。正直なところ、それがないともたないんですよね、メンタルが(笑)。インプットする時間もないと煮詰まってきちゃうということもあって、私にとってはとても大事な時間です。
あとは、フリーランスで働くデザイナーなどクリエイター系のママたちのネットワークに所属しています。そこではメンバー間で作業中のファイルを常に共有していて、誰でも編集できるようになっている。なので、例えば担当メンバーの子どもが突発的に熱を出してしまって作業ができなくなってしまったときなんかに、簡単な箇所であればすぐに別の人が作業を代わってくれるんです。みんなが隙間時間で助け合える環境になっているので、このシステムをつくったのはすごいと思います。メンバーのなかには学生時代の同級生もいるので、大変なことを話したりできるのにも助けられています。
—小田原は働きながら子育てをする場所としてはどうでしょうか。
子育てするにはやっぱり都心より田舎がいいなぁ、と小田原に来て思いました。まず保育園の待機児童が少ないのは大きなメリットですね。それに、ノロウイルスとかインフルエンザを子どもが保育園でもらってきて、家族みんなで倒れちゃうっていう話も、小田原ではあまり聞きません。子育てをしていると病気にかかりやすいので、この点はとても良かったです。
新しい働き方もいいな、と思う人へ

—会社員として在宅勤務をしつつ、フリーランスとしても働く、という藤森さんのような新しい働き方もいいな、と思っている人に対してメッセージ、アドバイスはありますか?
今はまだ会社が副業を禁止している場合が多いと思うので、理解のある会社を探すのが難しいかもしれません。ただ、会社との信頼関係があると、副業もやりやすいと思います。
あとは、雇用保険などの制度は副業することを想定していないので、フリーランスでの売り上げはあっても、支給される金額は会社の給与だけが基準になって、意外と少ない、となりがちです。とはいえ、今後は国の後押しもあって制度も変わっていきそうなので、注視しているとおもしろいと思います。もっとみんなが多様な働き方を認めてもらえるようになったらいいですよね。
藤森 華子(ふじもり・はなこ) 美術大学の油画科において現代美術を学んだのち、映像・メディアアートの学科に進学。卒業後、制作会社、広告代理店にて主にflash制作、ゲームアプリやウェブサイトのデザインを行う。現在、4歳の息子と0歳の娘の育児をしながら、在宅+コワーキングスペースでデザイン業務をしている。