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創業者インタビュー

おだわら・はこねではじめたひとたち

渡辺 愛/村山 匠Interview04キカキカク

仕事も暮らしも楽しむふたりがつくる、陶器のうつわ。小田原でちょうどいい毎日、見つけました


 
陶器の工房〈キカキカク〉を営む、村山匠さんと渡辺愛さんのご夫婦。独立と結婚のタイミングで小田原に工房を構えました。もともと手を動かしてものをつくることが大好きだった渡辺さんと、‟根っからのサラリーマン気質”という村山さん。会社員時代を経て、ふたりはいま小田原で仕事もプライベートも充実した生活を送っていると話します。自分たちは芸術家ではない、というふたりがつくるのは、毎日の食卓にフィットする、気取らない使い勝手の良いうつわ。親しみやすいご夫婦の人柄は、まさに〈キカキカク〉のうつわの持つ、おちゃめでリラックスしたイメージそのものでした。
 
 

つくりたいのは、‟作品”ではない日常使いのうつわ

どこか力の抜けたあたたかみのある柄がキカキカクの商品の持ち味。制作はすべての工程を夫婦ふたりで行っている。
 
―まず、陶芸家としてどんな仕事をしているのか教えてください。
渡辺:そうですね、自分たちは陶芸家です、と名乗るのは実はちょっと気恥ずかしくて、小さい工房みたいなイメージでやっています。大きな製陶所とも違うし、芸術家みたいな陶芸家ともまた違う。
村山:渡辺は「手作り品と工業品の橋渡しになりたい」とよく言ってますね。市販の工業品よりも手作り感があるけれど、何千円もするようなお皿よりは手を出しやすいものをつくりたいと。
渡辺:使い勝手もよくて、日常使いできるような。そういう部分で「気持ちいい」と感じるお客さんはたぶんたくさんいるんだと思うんです。作品としてのニュアンスが強すぎると、どうしても大事に扱わなきゃいけない、という重たい感じがして。
 
―なるほど。では、そもそもどうしてご夫婦で工房を開くことになったんですか?
渡辺:私が高校、大学と美術系の学校を出ていて、そのまま就職して輸入玩具の商社で販促品をつくるデザイナーになったんです。だけど、手でものをつくることが好きだったので、「商品を売るためにデザインをする」ということがあんまり面白くないなと感じ始めてしまって、4年ほどで仕事を辞めました。次は何をしよう、と考えていたときに陶芸教室に通い始めて、それがすごく自分の手にフィットしたんですよね。ろくろを挽いていると心が真っすぐになっていくというか。それで、愛知の瀬戸にある陶芸の職業訓練校に通って、岐阜の陶磁器メーカーに就職しました。修行をしながら独立準備をして、3年前に小田原で工房を開きました。
 
 
渡辺さんは、人生を通してずっとつくり続けていたい、という。言葉の端々から、つくるということへの情熱と真摯さを感じる。
 
―ということは、渡辺さんは本格的に陶芸を始めた頃にはすでに独立をイメージしていたんですね。村山さんは?
村山:僕は彼女がデザイナーをしていた会社で同僚だったんです。僕自身は陶芸には興味がなくて、ごく普通のサラリーマンだったんですよ。彼女が独立することになって結婚して、僕も一緒にやることになって、陶芸に触れたのはそれからです。
 
―なんだか経歴もキャラクターも全然違ったおふたりですね!普段の仕事の役割分担はどのようにしているんですか?
渡辺:私が主に制作とデザインを担当しています。ただ、ろくろを挽いたり絵付けをしたり、そのほかにも制作以外の仕事がすごく多くて、その部分を彼が担当しています。イベント出店の準備とか、力仕事とか。
村山:そうですね、まああの、内弟子みたいなことをしています(笑)。
渡辺:でも今では制作も半々くらいで、お皿の形のものは全部彼がつくってますね。あとは食事とかお茶とかも準備してくれたりして。
村山:先生、お茶入りました、先生、ご飯できました、って(笑)。
渡辺:肩凝るから休みな、ってお茶出してくれたりして、本当にありがたいことで、もうひとりじゃとても続けられないですね。
 
 

つくるにも暮らすにもぴったりだった、小田原の「ちょうどよさ」

―工房を開くにあたって、小田原を選ばれたのはなぜですか?
渡辺:ずっと、海の見えるところで仕事がしたかったんです。静岡の三保の松原というところにある高校に通っていたんですが、校舎が海のすぐ近くで、何をするにも波の音とトビの声を聞きながら、っていう環境で。その思い出があったから、海の近くで楽しくやりたいな、というイメージがあったんです。あとは、小田原の気候がすごく大きかったですね。
村山:関東圏のいろいろな場所で家探しをしていた頃、小田原に家を見に来た日が大雪の降った翌日だったんです。前日・当日と、他のエリアでは不動産屋さんが車も出せないくらいの天候で。でもその日、小田原だけは全然雪が積もってなかったんですよ。なんだかオアシスみたいな雰囲気でしたね。
渡辺:割とそれで決めたようなところがあって、きっとここは平和なところだ、って(笑)。でも実際に住んでみたらそんな感じでした。クラフト市への出店や法人への納品もあるので、もともと「つくる」「移動する」「売る」「住む」のバランスが良いところを探していたんです。小田原はそのあたりがちょうどいいと思います。西にも東にも行けて、物価や家賃もちょうどいい。だから、友だちの作家さんたちにも勧めてますよ。ものをつくる人ってあんまり外へ出かけて遊んだりするわけじゃないから、暮らしやすいところがいいんだと思うんです。その点、小田原なら歩いてお城や海にも行けますし、温泉も近い。普通のことが割と楽しいな、って。
 

苦労話も村山さんが話すとなんだか楽しそうに響く。渡辺さんとのポンポンと弾む掛け合いは、聞いているこちらも思わず笑みがこぼれる。
 
―暮らしもお仕事も楽しんでいるのが伝わってきます。小田原に来て仕事をするなかで、助けてもらった人はいますか?
村山:カミイチや大磯市(※月に1度、大磯港にて開催されるマーケット)などのクラフト市があることで、いろんな点で助けられていますね。そういう場がなかったら僕たちのあり方もだいぶ変わっていると思います。収入源のひとつなのはもちろんですが、情報交換の場でもあるんです。クラフト市への出店で本当に横のつながりが増えて、いろんな情報、いろんなチャンスが広がったんですよね。その場で百貨店やうつわ屋さんに声をかけてもらって商談になることもあったり。あとはカミイチ、大磯市に出ることで、このエリアにどんな人たちが暮らしているかとか、周りの作家さんたちがどうだとか、まちの雰囲気をすごく感じられましたね。ものづくりをやっていてこの近辺に移住を考えている方は、一度出てみたらいいと思います。まちを知るすごく良いきっかけになりますよ。出店してみて、雰囲気が良ければ移ってくるとか、そういうことでいいと思うんですよね。
 
 

独立したからこそ、良い声も悪い声もダイレクトに伝わってくる

―実際にこうして独立して、良かったことはなんですか?
渡辺:私にとっては全部かもしれないですね。ずっとやりたかったことなので仕事も楽しいし、生活にもなんのストレスもない。好きなものをつくって販売しているだけなんですけど、お客さまがありがとう、って言ってくれて、こんなありがたい仕事があるんだな、と思いながら毎日暮らしています。あとは時間の使い方が本当に自由になりました。
村山:渡辺は若いころから徹夜も当たり前だし、働くときは24時間くらい働くよね。で、そのあと2日間寝る、とか(笑)。僕は根っからのサラリーマン気質なので、平日五日働いて土日の夜には晩酌してます。少しずつ余裕が出てきて、休みの日には趣味のドラムを叩いたりランニングしたりしてます。充実してますね。
 
―生活もきちんと大切にできているということですよね。逆に、独立して悪かったことはありますか?
渡辺:これはもう、お金と信用ですね。家を探すときにはローンも組めなかったし、賃貸も借りられなかった。会社員時代にローンで車を買いましたけど、今はもう買えないでしょうし。そういう部分ではすごく不便だなぁと思います。ほかの陶芸家の先輩に聞くと、何するにもキャッシュだよ、って。
村山:僕の場合は、悪いこととは少し違いますけど、「全部自分の責任になった」ということですね。会社員時代は、どんなにお客さんに怒鳴られても「会社を出ればあとは自分の時間だ」と思っていました。「お客さんがいて組織があって自分」という構図だったのが、この仕事になると「人対人」という立場になって、かなり意識が変わりました。逃げられないですからね、どんな問題が起きても。でもみなさん優しいから、個展とかで「風邪ひかないでね」、ってホッカイロを持ってきてくれたりするんですよね。お客さんとそういう関係になって、誠実にやらないとな、と本当に思います。
渡辺:そうだね。ちゃんとふたりの間で、真面目に誠実にやっていこうね、と日々確認しています。
 

ふたりを見ていると、仲の良い夫婦というのは、絆でつながった最強のチームなんだと感じる。性格はお互い全然違うのに、まとう空気が同じなのが不思議だ。
 
―そのおふたりの誠実さは、商品にも表れているように感じます。最後に、おふたりのこれからの目標を聞かせてもらえますか。
村山:僕は中長期的には、収益の柱を増やさないといけないと思っています。年をとっても今と同じように働けるわけではないので。客単価を上げるかつくる時間を増やすか、もしくはうつわの絵柄を布展開して、コンテンツを売る仕事を増やすとか。
渡辺:結局こういう話を開業してからこの3年の間に何度もしていて、いま目の前にあるものをきちんとつくって、ひとつひとつ誠意を持ってやっていくことが今は大事だよね、って話になるんですけど。あとは、海外進出したいですね。海外のクラフト市に出店してみたいです!
村山:うん、そういうのはやってみたいね。遠くない未来に行けたらいいですね。いいね、海外進出。デカい!夢がある感じ。
 
愛さんは24時間働いて24時間寝るような生活だそう。時間は不規則で、締め切り前などはさらに忙しくなる。匠さんは基本的には平日がお休み。毎週末の晩酌タイムには手の込んだ料理が並ぶ。通称「ムラ酒場」

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