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創業者インタビュー

おだわら・はこねではじめたひとたち

郡 純子Interview14Farmhouse HamaYou

友人から引き継いだ民泊と果樹園。経験と移住者の視点を活かし、巡ってきたチャンスをビジネスに!



海外で観光業に従事し2009年の帰国とともに夫と小田原で暮らし始めた郡 純子さん。2020年から〈Farmhouse HamaYou(ファームハウス ハマユウ)〉として民泊の運営と小規模な果樹園での体験プランの企画運営を行っています。起業のきっかけは“私の民泊を引き継いでほしい”という友人からの思いもよらぬ提案でした。民泊運営には以前から興味があった郡さん。縁がつないだ突然のチャンスでしたが、郡さんのそれまでの経験やスキルを鑑みればまさに適任の役目でした。ビジネスとして成立させることで、引き継いだ民泊と果樹園を大切に守り抜いていこうとしています。
 
 

「私、民泊やめるからあなたがやりなさいよ」起業のきっかけは友人からの突然の提案

ーまず郡さんがどんなお仕事をされているか教えてください。
「Farmhouse HamaYou」として小田原市内で民泊の運営と、果樹園を利用した体験プランの企画運営を行っています。

ー民泊の運営と果樹園での体験プランというのはちょっと珍しい組み合わせですね。
そうかもしれませんね。果物農家をしながら所有する建物で民泊を行っていた友人がいて、その方から民泊の運営を引き継いだんです。果樹園の管理自体は所有者である友人が引き続き行っていますが、民泊とセットで果樹園も利用していいよ、とこのような業態になりました。

〈民泊〉2022年には室内の改装工事を行った。
〈果樹園〉7,000㎡と果樹園としては小規模。ブルーベリー、ビワ、湘南ゴールド、キウイなどを栽培している。

ーそれは変わった経緯での起業ですね。
とても特殊ですよね。2009年に夫婦で海外から小田原に移住してきたんですが、その友人とはその頃から犬の散歩中によく出会って犬友達として仲良くなったんです。会えばおしゃべりをして住んでいる場所もお互い知っていて…という関係が10年ほど続いていたんですが、ひょんなことから引き継ぐことになって。

ー長い付き合いのご友人とはいえ、きっと深い信頼関係があったんですね。
思えば彼女が民泊を始めた時に私がいろいろアドバイスさせてもらったのが任せてもらうきっかけだったかもしれません。
2019年のある時、彼女が所有している建物の一角で民泊を始めると言ったんです。海外で旅行会社に勤務していた時にホテルもいろいろ見てきたので「じゃあお客さんが入る前に一度見に行ってあげるよ!」とお邪魔したら…部屋には私物がたくさんあるし冷凍庫には自宅に入り切らなかった食べ物が入ってるしで、コレはなかなか厳しいぞ、って状態で。
民泊って予約サイトでの宿泊客からのレビューがすごく重要なんです。最初のレビューで悪く書かれてしまうとその後の集客が難しくなるから、すぐ変えよう!と。A4用紙4枚にすべきことをびっしり書いて彼女に渡したりして(笑)一緒に準備しました。すると最初のお客さまからとても良いレビューをもらえたんです。本人も「郡さんに見てもらってよかった。こんな良い評価がもらえるなんて」ととても喜んでくれて。その後も買うべき物などアドバイスしていたんですが、すぐコロナ禍に入ってしまって…。

ープロとしての視点でアドバイスされたんですね。ご友人がそれを覚えてらして…
最初のお客さまから1年ほど経った頃、彼女に「私、民泊やめるからあなたがやりなさいよ」って提案されたんです。家族の介護をすることになってそこまで手が回らない、果樹園も民泊とセットで使っていいから!って。一晩考えましたが答えはたぶん最初から決まっていて、翌日にはやってみたいと伝えました。それが2020年8月のことです。
 
 

観光業界で培った経験と移住者ならではの視点を強みに

果樹園内で採れたフキと湘南ゴールド。敷地内では山菜やキノコなどが採れることも。

ーやりたいとお返事する時はどんなお気持ちでしたか?
ワクワクでしたね!特に果樹園は以前から犬を連れてお邪魔していた大好きな場所だったので、そこに携われるなんて嬉しかったです。
以前観光業界で働いていたこともあり自分の経験を考えると提案をお受けするのは自然な流れで。小田原に越してきたときからいつか民泊をやってみるのもいいな、とイメージしていたんです。移住してきた私が小田原で面白いと感じるものはきっと旅行者にも魅力的に映ると思うので、それを紹介するような役目はしっくり来ました。
海外に住んでいた頃も日本から友人や知人が来るたびに、あちこち案内していました。自分の好きなものをみんなに紹介して喜んでもらえることがもともとすごく好きだったんですよね。帰国後は、逆に日本旅行に来る海外からの友人たちに小田原の街を案内してます。

ーご友人もきっと郡さんなら適任だと感じたんでしょうね。実際に始めてみて、どんなふうに事業を展開していこうと考えていますか?
実は民泊と果樹園での体験をセットで販売する、というのは友人が民泊を始める時から私が提案していたことだったんです。せっかく果樹園があるのだから、宿泊がてら果物狩りしたり果物を買ってもらったりすればいいじゃない、って。民泊のお客さまを果樹園へ、果樹園のお客さまを民泊へ、と相互に送り出せば他と差別化も図れるし利益も出しやすい。
ただやってみると民泊の予約サイトのユーザーさんはあくまで宿泊場所だけを探していて、箱根に行く、スキューバに行く、といった別の目的のある方がほとんど。果樹園とセットの予約はなかなかなくて…。最近やっと、果樹園での体験に興味を持った方が民泊もしていることを知って一緒に予約してくださるということが増えてきました。民泊の予約サイトで更に果樹園のアピールを進めているところです。
 
 

コロナ禍での民泊スタート。細かな気配りとおもてなしで開業9ヶ月で「スーパーホスト」獲得

ー事業を始めたタイミングはコロナ禍の真っ只中でした。どんなスタートを切られたのでしょうか。
営業許可の名義変更などを行って民泊を引き継いだのが2020年10月で、その年の宿泊は11月に1組だけ。やっと予約が入りだしたのが翌年3月末でした。マーケットが必要としているのは何だろう、何をしたらいいんだろう、と思いながらもコロナ禍で出来ることも少なくて…とにかく来られた方には気持ちよく過ごしてもらって、予約サイトに良いレビューを残してもらえるようにすごく気をつけていました。レビューが増えるにつれて稼働が増えてきたんです。誰とも接触しない貸切宿だったこともコロナ禍において幸いしたと思います。

寝室はシングルベッドをふたつ繋げた「ハリウッドツイン」タイプ。子ども連れにも人気。予約内容によりツインの配置にすることも。
ー2021年7月には民泊の予約サイトでレビューが高評価の事業者のみに与えられる「スーパーホスト」というステータスを獲得されています。秘訣はなんだと思われますか?
駅から近くはないし、周りに飲食店も少なくて古い建物で…正直なところ条件は決して良くないと思うんですよね。その分、泊まられた方に“あぁ、ここにしてよかった”と感じてもらえるおもてなしを心がけています。冬場にはふわふわの羽毛布団を用意するとか、肌触りのいいタオルを置くとか。古くてもとにかく清潔に、ということは特に気をつけています。コロナ禍では宿泊の前々日までに室内清掃を終わらせて前日には入室しないなど、対策も入念に行いました。
2022年には室内の改装を行っています。床や畳の張り替え、室内全体への抗菌・抗ウィルス加工、非接触開閉式トイレの設置、スマートロックの導入など、物理的に少しでも安心してお泊まりいただけるようにしました。
あとは宿泊の目的や泊まる方の属性に合わせて気を配るようにしています。たとえば海外から帰国された方が隔離期間で長期利用された時には食パンを差し入れました。私がそうだったんですが、海外にいると日本のおいしいトーストが無性に恋しくなるんです(笑)。それはすごく喜んでいただけましたね。
 
 

リピーター増加中。安心安全な果物を自分で摘んでのんびり過ごす収穫体験

ー果樹園での体験プランは具体的にはどんなことをされていますか。
季節ごとにブルーベリー、ビワ、湘南ゴールド、キウイなどの収穫体験のほか、園内でのピクニックや星空の鑑賞会、リース作りのワークショップなども行っています。私自身の理想の場所として、ほとんどの果樹狩りやイベントは犬も同伴できるようにしています。
この果樹園は駅から徒歩圏内でありながら細い道の奥にある秘密めいた場所にあって、観光バスで行くいわゆる“○○狩り”のイメージとは違った立地なんです。7,000㎡と果樹園としては小規模ですが眺望もよく居心地がいいので、収穫をするだけでなくここで過ごす時間を楽しんでもらえるようなプランを企画しています。

ー価格設定はどのようにされていますか?
価格は毎回とても悩むところなんですが、昨年のブルーベリーの季節には収穫しながら果樹園で3時間過ごせる体験型ファームステイプラン(※貸テント付き、果実食べ放題+1グループ1,000g持ち帰り可)を大人2名7,400円としていました。価格だけ見ると高いと感じるかもしれませんが、それだけの価値はあると思っています。
ブルーベリーやビワは傷みやすいため、一般に出回るのは早く摘み取った固くて酸味のあるものや外国産の冷凍物がほとんど。でも本当は樹上で完熟した果実が一番おいしいから、コロナ禍においても果樹園でぜひそれを食べてほしくてそのような設定にしました。
外国産ならスーパーで安く買うこともできますが、果物の育った環境を見てもらい、農薬も化学肥料も除草剤も使わずに育った安心安全な果物を自分で摘んで食べて、のんびり過ごす。実際にお客さまの反応を見ていると満足度は低くないと感じています。

体験型ファームステイプランではグループごとにテントを貸し出し、収穫をしながらピクニックをすることができる。
ー反響はいかがでしょうか。
おかげさまでリピーターの方も多くて、ご紹介やinstagramを見て来てくださる方が増えてきました。現在、体験プランの告知や集客はほぼインスタのみで行っています。以前は体験の予約サイトを利用したこともあるんですが、インスタだと問い合わせの時点でお相手のお人柄などがなんとなくわかって安心なんです。
 
 

「お気に入りの民泊」「行きつけのファーム」をテーマに、何度も通いたくなる場所を目指して

ー今後の目標はありますか?
「行きつけのファーム」「お気に入りの民泊」をテーマに掲げて、何度も通いたくなる場所を目指しています。民泊に泊まって収穫体験をして、口コミで新しい人が来てくれてその人がリピーターになって…ビジネスとしてきちんと回っていく形に確立したいですね。果樹園を目的に遠方からもお客さまが来てくれて、そのまま民泊にも泊まってもらえるような「お気に入りの民泊」「行きつけのファーム」になっていきたいです。
いま小田原は移住者が増えていますが、その人たちが遊びに来る友だちを案内する場所がなくて困っているそうなんです。市外の友だちに自慢できるような場所にできたらいいですね。移住してきた人たちは小田原の人たちとのつながりを求めていて、果樹園でたまたま出会って子ども同士が同じ年頃で仲良くなるということもあるので、そういう出会いの場としても活かしてもらえたら。
大人も子供も犬もみんなが一緒に楽しめる場所として、小田原のまちでポジションを築いていきたいですね。

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