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創業者インタビュー

おだわら・はこねではじめたひとたち

岩崎 有樹Interview13岩崎眼鏡枠製作所

知らないことだらけの独立。たったひとりでゼロから学び、磨き続ける眼鏡づくり


 
デザインからレンズ加工までを一貫して行い、眼鏡を製作する〈岩崎眼鏡枠製作所〉。小田原市内にある作業場で全工程をたったひとり、手作業で行っているのが代表の岩崎有樹さんです。
独立を目指して転職した眼鏡製造の世界でしたが、業界の仕組みを知るにつれ会社員として経験を積むよりも自分ひとりでやらざるを得ない状況に追い込んだほうが早い!と短い下積み期間で独立しました。“ロマンとそろばん”のバランスを取りながら理想を追求する、若きクラフトマンの真っ直ぐな思いをお聞きします。
 
 

 
 

自社ブランドの卸とODMの2本柱を手作業で

ーまず岩崎さんがどんなお仕事をされているか教えてください。
「岩崎眼鏡枠製作所」の名義で眼鏡の製作をしています。フレームのデザインからレンズ加工までひとりで手作業で行い、お洋服屋さんを中心に販売店へ卸しています。
 
ー「岩崎眼鏡枠製作所」はどういった形のビジネスをされているのでしょうか。
自社ブランドの卸と、お洋服屋さんや眼鏡店さんから依頼を受けてそのお店のオリジナルを製作しています。一般的なOEMは、依頼主がデザインや設計をしてその図面通りに作るものですが、僕の場合は設計して図面を引くことから、どんなお客さんがいるからどんなサイズが必要で…ということまで提案させてもらっているのでODM(※)のほうが近いんじゃないかと考えています。鯖江(※)でオリジナルを製作すると1型で1ロット2~300本くらい必要なんですが、僕は機械を使わず手で作っているので最小10本から請け負っています。本当はオリジナルを作りたいけど数量的にできなかった個人の販売店にニーズがあるんじゃないかと思っています。
 
※ODM:Original Design Manufacturing:独自に設計して製造した製品を他社ブランドで提供すること
※鯖江:福井県鯖江市。眼鏡の世界的産地で、国産眼鏡フレームのシェア率95%
 

自社ブランド「iwasaki」の眼鏡フレーム。
 

利幅の大きい直販をしないのは、創業当初助けてもらった販売店への恩があるから

 
ー機械を使わず手で眼鏡を作ろうと思われたのはなぜですか。
手作業というのは最初は後付けだったんです。本当はもっと買いたい機械がたくさんあったんですけど、創業当初は資金的に難しくて。仕方ないから手でやるか、と続けていたら機械と手では雰囲気が違うな、と気づいて。手作業でしか出せない微妙なブレとか手触りがあって、そのニュアンスが好きなんです。今いるお客さんは、手でやってるのがいいよね、という方々なのでやめるにやめられなくなっているのもあります(笑)。
眼鏡ってレンズ幅が1mm違うだけで似合うか似合わないか変わってくるんですよ。だから手でも機械同等の正確さで表現するというのは僕にとって大事なところですね。店頭のサンプルでは似合っていたのにオーダーして届いた商品は似合わない、とならないように慎重に作っています。
 
ー岩崎さんのようにひとりで製作される方は業界では珍しいのでしょうか。
そうだと思います。有名な作り手さんが数名いて、あとは全国に少しずついるようですが、皆さんほとんどオーダーメイドで直販している方。僕のように手作業かつODMや卸だけやる業態となると、鯖江以外ではそんなにないんじゃないですかね。
ひとりで卸というのがそもそも業界の構造的に不可能なんですよね。生産数が月に10数本程度でそれを卸額で売るのに対して、材料を調達するときは2〜300本分単位でしか購入できない。その在庫はいつ捌けるんだ、って話じゃないですか。キャッシュフローが悪すぎて…でもなんとかやっています。
 

フレームの形を整える作業。ひとつひとつヤスリで削っていく。
 
ーInstagramでも「一般の方への直接販売はしておりません」と書かれています。直販のほうが圧倒的に利幅は大きいですが…
創業当初、思ったように売上が上がらなくて苦しかった時期があって。そんなときに、先に入金してあげるよと助けてくれたのが現在も取引している販売店さんなんです。
直販にすれば確かに僕の取り分は大きくなりますけど、本来介すはずのそのお店を通さないことになる。僕にはその時の恩がありますから、必ずお店を通して購入してほしくて個人でのお取引はすべてお断りしています。
あと僕の眼鏡は洋服や髪型に合う脇役のような存在にしたいと思っているので、あくまでメインはファッション。僕よりもお洋服屋さんのほうがスタイリングや販売においてはプロなのでお任せして、僕は良い眼鏡を作るのに集中することにしています。もちろん眼鏡として万全に使えるようレンズやフィッティングなど眼鏡の実務面でのサポートもしています。
 
 

やらざるを得ない環境に自分を放り込むほうが早い!短期間の下積みから手探りのスタート

 
ー27歳というお若い年齢で起業されています。どのような経緯で起業されることになったのでしょうか。
もともと会社員として長く働くつもりはなくて、28歳までに独立しようと思っていました。とは言え独立できるような何かが見つかっていたわけではなかったので大学を出てひとまず就職したんですけど…。上司とのゴルフや夜のお店に付き合わされるような会社員としてのしがらみがたくさんあって、これはもう辞めよう、と2年弱で退職しました。
その頃住んでいた地域に、130年くらいやっている老舗の眼鏡屋さんがあって。そこの店主のおじいちゃんが“これは職人さんがこうやって作っているんだよ”っていろいろ教えてくれて、眼鏡って結構ヤバいんじゃね、って感じたんです。そこで眼鏡に興味を持って、仕事にするなら製造なのかデザインなのか販売なのかって考えていた時に、すごく綺麗な眼鏡をつくる作り手さんとお話する機会があって自分も製造をしよう、と。
眼鏡の製造と販売をしている会社へ転職したはいいものの、最初の1年間は店頭販売。早く独立しようと思っていたので、同時に通信の専門学校でも眼鏡の勉強をしていました。その会社で2年目からは製造に入って、それから1年ちょっとで独立しました。
 

眼鏡作りで使う機械の並ぶ作業場。ここにある機械の数は一般的には必要最低限以下だという。
 
ーものづくりをする人は長く勤めて腕を磨いてから独立するイメージですが、かなり早く独立されたんですね。
そうですね、今の自分ならたぶんしないですね(笑)。鯖江では眼鏡を作るのは分業制なので、全工程を一社でやっているところってあまりないんです。各工程をそれぞれの会社、担当者が作業してそれをアッセンブル(※)して眼鏡を作っているので、会社に入ったとしてもそこではひとつの工程しか経験できない。全工程を知るためにいくつも会社を練り歩いたら一体何歳になっちゃうんだろう?と焦って、独学で全部やろう、ということになったんですよね。やらざるを得ない環境に自分を放り込んじゃったほうが早い、って。もう勢いですよね(笑)。
 
※アッセンブル:集めた部品を組み立てること
 
ーいろいろ知らない状態で始められたんですね。
何もわかってなかったですね。蓋を開けてみたらそもそも部品ひとつ買うことすらできず、どこで買ったらいいですか、ってところから始まって。鯖江の業者さん方は取引が始まれば皆さんすごくいい人たちなんですけど、最初はクローズな業界なんです。材料や機械の業者さんと一切付き合いがなかったので、菓子折りを両手に持って取引させてください、って鯖江中を回って。そうしてようやくできた取引先さんたちと今お付き合いさせていただいています。
眼鏡作りも鯖江の取引先さんに聞きまくって教えてもらいました。何かわからないことがあると電話して聞いて、最初はすごく嫌そうな感じなんですけど教えてくれるんです。深いところは社外秘でしょうけど、ヒントはくれます。もう恩しかないですね。
 
 

日常的に使うものだから、「手で作っている」を理由にせず下げられる最大限の価格で提供したい

 
ーひとりで手作業となると価格は高くなりそうです。値付けは悩まれたところではないでしょうか。
そうですね、僕は「手で作っているから高い」と言うのは嫌なんです。作る工程がどれくらい大変かなんてお客さんには関係ないじゃないですか。
正直、毎月これくらい売上が必要で、作れる本数はこのくらいが限度だから…と逆算して価格設定するなら、フレーム1本7、8万円で販売したいところなんです。そのほうが僕の生活は楽だし製作時間にも見合うと思うんですけど、僕がやりたくてやっていることでお客さんの財布を不用意に傷付けるのは嫌いなんです。
眼鏡って日常的に使うものだから、使っていれば傷つくし子どもがいたら壊されることもある。だから安ければ安いほどいいと思ってるんです。それでもレンズを入れれば結局7,8万にはなってしまうので、お会計で金額を聞くとスミマセン、と思っているんですけど…。だから僕が下げられる最大限の金額でやろうと決めて、いま自社ブランドの商品は1本5万円強で販売しています。実際は大変ですけどね。
 
ーそうですよね、価格を下げるためにどんな工夫をされていますか。
当初は、学生時代に住んでいてすごく好きだった茨城県つくば市で開業しようと思ってたんですけど、住居や作業場の家賃が払えないと気づいて。親戚が持っているこの倉庫を使わせてもらおうと小田原に転がり込んで来ました。今は小田原が気に入っているので出ていくつもりはないですね。
今後はものづくり補助金を利用して機械を導入しようとしています。オリジナルを作りたい販売店さんが求める価格帯って上代3万円くらい。今の作り方ではどうしても叶えられないので、ODMでは機械製作の部分を増やして単価は下げつつ生産数を増やし、その分自ブランドでは価格を上げずに手で作り続ける、というふうにしていきたいですね。
 

肩書は作家か職人ですか、と尋ねると“恥ずかしいから「眼鏡を作ってる人」と言っています”という謙虚な言葉が印象的だった。
 
ー最後に岩崎さんの今後の目標を教えてください。
いろいろな個店さんのオリジナル眼鏡を作らせてもらって、眼鏡好きの方がいいなと思ってどこが作っているのか調べたときに「あ、また小田原のあいつだ」って思ってもらえるようになったら嬉しいです。自分のブランドは、自由に気持ちよく作れていたらいいですね。新しい製造方法やデザイン、パッケージに対して流動的に実験やチャレンジができるような。販売数が増えるとそういうこともできなくなっちゃうので、自社ブランドは数を増やさず僕がその瞬間に表現したいものを表現する場としてやっていきたいです。

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